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Favorite Books #4

 

 

布川俊樹の The Standard Jazz Guitar

布川俊樹・著)

 

 

 

ギター布川俊樹さんとベース納浩一さんのデュオ、
DuoRamaがスタンダード曲のみを収録したアルバム、

『DuoRama Standards』

この本は、このCDに完全対応した
ギターパートのコピー譜(+TAB譜)&解説とエッセイ集です。

 


この本の最大の特徴であり、貴重な点は・・・そう、

 

 

 

「演奏者が、CDに収録されている自身のアドリブについて自ら解説している」

 

 

 

なんたってもうここに尽きます!!

(…と言いつつ他にもすごいところを色々と紹介していくんですが)

 

 

ピンとこない方のために補足しますと、

音源のコピー譜作成までは、時間も労力もかかりますが
頑張れば、なんとか自力でもできないことはありません。

 

が。

 


「プレーヤーのアドリブ中の頭の中」

 


こればっかりは、どうやっても覗く事はできません。

 


例えば、

 

コードの解釈。
どのようにそのフレーズを発想したのか。
ある音を出した時、頭の中ではその音をどう捉えていたか。
共演者と音が合ったのは、偶然のシンクロニシティなのか、
事前の打ち合わせがあったのか。

 

 

こういうことは、本人に直接尋ねる以外は、
聴き手が推測するしかありません。
(この推測するプロセスはこれはこれでとても大事なのですが)

 

でも、きっとこれらのことは
多くのジャズプレーヤーの関心事ではないかと思います。
これを知る事ができたら、間違いなく
アドリブ習得の大きな助けになると思います。


この本は、それが演奏者本人の手によって書かれている
貴重な資料なのです。

 


そのあたりの記載をちょっとだけ紹介しますと・・・


・この箇所は裏コードを意識。

 (中略)もちろん演奏中はそんな理屈を考えているわけではなくて、
 ちょっとアウトに行きたい気分だな、位のノリです。

・マイルスのように間を取りつつブルージーな雰囲気を心がけた感じ。
・このあたりでは如何にサビに繋げてスケールチェンジするかに意識は行ってます。

・奇跡の箇所です。何と半拍(倍テンなら1拍)なくなってます。

 (中略)それが、2人でバッチリ一緒になくなってるの!

 

 

これ以外にも、もっと細かいヴォイシングとか、
リハーモナイズのアイディアが
譜面とともに山ほど解説されています。

「(このフレーズは)完全に手癖です」

と言い切っているところなんかもあって面白いです。

、」

 

曲ごとに書かれている、関連するエッセイも読み応えあって、
私はこれらだけ先に読破してしまいました(笑)

 

「ジャズギター速球道」
「人生の見えるバラッド?」
「インタープレイこそがジャズの醍醐味」

 

・・・はい、目に入ったら読まずにいられないタイトル達であります。

 

 


そして、この本にはもう一つすごい点が。

それは、付録のCDです。

 

なんと…

このCD…
 

 

『DuoRama Standards』から

そのままギタートラックを抜いたもの。

 

 

つまり、
 

納浩一さんのベースと


 

 

妄想デュオ

 

 


ができるのです!!!

 

…考えただけでヨダレ鼻水脳内お花畑であります。

 

 

しかも、実際に作品としてリリースされている楽曲のベースラインなので
マイナスワンとして録音されたものよりも
リアリティというか、生々しさがあります。
こういう貴重な録音はなかなかないのではないかと思います。


しかしまあ実際に納さんのベースラインとバーチャル共演してみますと

 


「どんなに素晴らしい人に伴奏してもらっても、
できていないものはやっぱりできていない」

 


という事にもれなく気付かされるという、
冷静に考えれば当然とも言えるオチが待っております(・∀・)アハハ
まったくもってぬかりないシステムの教則音源です。

 


・・・まあ冗談はさておき(笑)、

いいタイム感を身につける上では、
いいリズムを聴くことが欠かせません。
練習に何時間でも付き合ってくれるこのCDは、
どの楽器の人にも最高の教材となると思います。


更に、この音源が実際の楽曲CDからそのままギタートラックを抜いた
マイナスワンであるという事を利用して、
同じベースラインを聴いた布川さんがどんな風に演奏しているか、
「模範解答」を聴いて研究する事ができるわけです。

 

まさに、一度で二度も三度も美味しい本であります。

 

 

ちなみにこの本、
布川氏の完全自主出版のため
通販サイトなどでの流通はなく、
ライブでの直接販売および郵送のみとなるようです。

購入方法は布川氏のブログをご覧下さい。

 


ところで、布川さんといえば
自らをジャズ渡世人と呼び、
地方のジャズ活性化に尽力されていることでも有名です。


私が布川さんのことを知ったきっかけは布川さんの別の著書、

『ジャズの壁を超える100のアイディア』というエッセイ集でした。

 

この中に

「ジャズは絶滅危惧種か?」

という世知辛いタイトルの記事があり(笑)、
この記事で布川さんの活動について知ることになったのですが、
まさに地方のアマチュアジャズプレーヤーである私はこの記事に感銘を受け、
それからというもの、いつか布川さんにお目にかかって
お話を伺ってみたいと考えていました。


そんな折、DuoRamaのライブは願ってもない機会でした。
ライブは
ジャズ・スタンダード・セオリー』のページにも書いた通り、

それはもう涙もので、これだけでも十分幸せでしたが
贅沢なことに、ジャムセッションで一緒に演奏して頂くことも叶いました

(私のプレーはそれはまあ思い出したくないくらい酷いものでしたが・・・)。
 

そして、ライブ終了後、ここぞとばかりにお二方に食らいついて

たくさんお話を伺いました。

 

大御所にもかかわらずそんな迷惑な客に
布川さんは気さくに、たくさんのお話をして下さったのですが
中でも最も印象に残ったのはこの言葉でした。

 

 

「迷ったら、立ち返るべきは

 

 いいメロディを
 いい音で
 いいリズムで
 演奏すればいい

 

ということ」

 

 

メロディ、音色、リズムが音楽の最も大事な要素。
どのスケールが使えるとか、難しいことができるとか、
そういったことはあくまでその下位の概念である、
とのお話だったと記憶しています。

 


確かに、演奏中は

「ここで最近覚えたあのスケールを使ってやろう」
「あのポリリズムフレーズが成功したら注目を浴びるに違いない」
「この人の前でプレーするのは久々だから、新しいことを覚えた自分を見せたい」

などなど、色々な邪心(?)が錯綜します。
考えて考えて、それを出せるように必死で練習したのに、
その割に録音を聴くと


「全然歌ってない・・・」


ということがよくあるなあ、と思います。


練習はとにかくよく考えて取り組む必要があると思いますが、
それをお客さんの前での演奏に持ちこむと、結果
「お客さんに伝わらない、自己満足の演奏」
になってしまいがちな気がします。

いざステージに立ったら、全て忘れて原点に立ち帰って、
こういう最も大事なことだけに集中した方が
きっといいプレーになるし、
自分自身も共演者も楽しいんですよね。


 

いいメロディを
いい音で
いいリズムで
演奏すればいい。

 

 

 

自分も枝葉にとらわれて難しく考えすぎて

本質を見失いそうになることがよくありますが(;_;)、

その時はこの言葉を思い出して、

自分にとっていいメロディ、音、リズム、とは何か。

ここに立ち返れるようにしたいと思います。

 


 

布川さん、ありがとうございました!

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